機内にて

タイからの帰りの飛行機で。

(タイ・バンコクの空港)

座席が非常口のそばになりました。

CAさんのシートが目の前にある席です。

あの座席はCAさんに言われるんですよね。

「緊急時,乗客の皆さんを非常口に誘導する際、ご協力お願いします」
と。

「緊急時」と聞いて、我が人生に悔いはなかったか、とチラッと考える瞬間です。 
 

飛行機がタイの地を離れました。

タイよ、また来るからね!

(タイ・バンコクの空港)

大地が斜めになり、やがて白い雲の下に見えなくなりました。

名残惜しんでいると、機内食が運ばれて来ました。

映画を見ながら、静かに食事する私。

飛行機が、少しだけガタッと揺れました。

ヒヤッとしましたが、この位の揺れはよくある事です。

私、食べ続けます。

ガタガタッと揺れました。

こ、これ位もよくある事です。

食べ続けます。

シートベルト着用のサインが出ました。

今度はガタガタガタガタッと揺れました。

気になりながらも、食べ続けます。

が、揺れは更に大きくなり、コップの中のオレンジジュースがこぼれました。

揺れが続きます。

食べたいけど、フォークの狙いが定まらず、お肉に刺せません。

なんとか刺せましたが、口に上手く運べません。

機内食のトレイの中がオレンジジュース浸しになっています。

それでも食べる行為を止めない私。

本能とはシブトイものです。


揺れが少し収まりました。

さぁ、食事再開です。

と、思ったら、CAさんがワゴンを押して来ました。

機内食を片付け始めています。

私の機内食にも、CAさんの手がスッと伸びたかと思うと、私の目の前に機内食が持ち上がり、左から右へ…そして、ワゴンの中に消えていきました。

あの、まだ食べ終わってないんですど……。

CAさんと目が合いました。


CAさん、ニコッと微笑んで、私の手からフォークを取り上げました。

私、素直なんです。

というか、咄嗟に言葉が出ないタイプなんです。

CAさん無情にも私に背を向けて、機内食と共に去って行きました。


飛行機の揺れが再び始まりました。

「当機は只今、気流の悪い所を通過中です。」

放送が入りました。

機内のライトが一斉に消えました。

暗い。

暗くなると、余計に不安になります。

CAさん達が私の前に座り、シートベルトを締めました。

CAさん、無言で目を閉じます。

揺れが更に酷くなってきました。

時々フワァッと機体が下がります。

その度にどこからか「ひゃぁ〜」と、弱々しい悲鳴が聞こえます。

私も口から内蔵が飛び出しそうです。

私、映画を見て気を紛らわそうと試みますが、内容なんかちっとも頭に入りません。

CAさんのお顔を覗き見すると目を閉じたまま…。

眉間に縦じわが入っています。


CAさんにこんなお顔してほしくない…。

覗き見するんじゃなかった…。

飛行機に乗った時にCAさんに言われた「緊急時」が、頭をよぎります。


あぁ、なんかわからないけど、ごめんなさい!


私が悪うございました!


どうか無事に香港まで飛び切ってください!


私が心から反省してるっていうのに、機体は容赦なく揺れ続けます。

大事な人達に「今までありがとう」と、 念力 送っておこうかな…。



どの位経ったでしょうか。

機内のライトが点きました。

CAさん達がシートベルトをはずし、立ち上がりました。

窓の外を見ると、香港の高層ビルが見えます。

助かった!!


アメージング・グレース!!!


機内の人全員が安堵した瞬間だと思います。

私の手の平、汗でグッショリ。

(香港)

「皆様ご搭乗ありがとうございました。

当機は間も無く香港国際空港に着陸いたします。」

機体にドーン!という衝動があり…

地面からの摩擦が感じられ…

窓の外の景色の流れが次第にゆっくりになっていきました。

香港!


またこの目で香港を見られるとは、なんて感動!!

(香港)

飛行機が止まりました。

心の中で万歳しました!

シートベルト着用のサインが消えて、立ち上がったその時…

ぐ〜〜〜〜〜〜。


緊張がほぐれたのでしょうか、お腹の虫が急に騒ぎ出しました。

本能とはシブトイものです。

周りの皆さんの動きが一瞬止まったように感じたのは多分 気のせいでしょう。

「私じゃないから」という顔して、飛行機から降りた私でした。

香港 ゆるゆる〜 太極拳日記

香港人に太極拳を教わり、教えている日本人です。香港人との太極拳的生活をゆるゆる〜と綴ってまいります。

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